軌道力学 - Orbital Mechanics -

宇宙を駆けるために!! 数学・物理・工学を結集させて……

軌道力学の教科書 学ぶためには……

 軌道力学(Orbital Mechanics)は、天体の惑星(地球も含む)の動き、人工衛星宇宙機の運動を研究した学問分野です。天体の観測から導きだされたケプラーの法則を、数学を用いて、数式だけで理論的に組み立てられます。数学や数値計算を基に、電波を用いた宇宙機の観測データ(距離や速度など)を入手して軌道を推定したり、ロケットエンジンを噴いて軌道を遷移・維持したり、宇宙航行では必須な分野です。

 しかしながら、軌道力学を学ぶにも教科書となる専門書が少ないのが実情です。私が学んだ28年前から状況は変わっていないかもしれません。軌道力学に特化した日本語の教科書はあまりないです。大学では、教授が各々に作成したテキストを用いて、学生に教えている状況でした。最新の出版状況を確認したところ、新しい教科書も幾つか出版され、絶版になっていると思われた古典的な専門書の再発刊版も購入できるようです。英語力があるならば、英語の専門書をお勧めします。

 軌道力学を学ぶためには、理工系の大学で学ぶ基礎的な数学の知識(微分積分三角関数、ベクトル・マトリックス計算など)が必須となります。専門書も数式の記載が多いので、習得するには難易度が高いかもしれません、軌道予測、最適軌道制御、軌道推定(軌道決定とも呼びます)などの応用には、制御工学、数値計算、プログラミング、確率論などの知識も求められます。

 Marshall H. Kaplanが1976年に出版した"Modern Spacecraft Dynamics and Control(参考文献1)"が軌道力学について古典的な専門書となります。私も大学時代に入手した本が手元にあります。古い本なので入手が困難と思いましたが、ペーパーバックで再発刊版が出ているようです。軌道力学のみではなく、宇宙機の姿勢運動についての説明も含まれています。

 学生向け教科書として適している"Introduction to Space Dynamics(参考文献2)"も現在でも入手できるようです。ペーパーバックは学生も購入できる値段で、私も学生時代から参照していました。初版は1961年でスプートニクが打ち上げられた後ですが、基礎となる理論が変わることはありません。一冊習得すれば、宇宙機の運動を理解できます。

 人工衛星に対する軌道予測や軌道推定の実務を反映したテキストとして、"Satellite Orbits(参考文献3)"があります。軌道力学の基礎から実際の数値計算まで、特に人工衛星が宇宙の何処を飛んでいるかを求める軌道推定の応用例が解説されています。実際に軌道推定をプログラミングできれば専門として十分通用します。

 日本語の教科書として、半揚先生が数年前に書かれた「惑星探査機の軌道計算入門(参考文献4)」を通じて、軌道力学の基礎を学ぶことができます。実際に購入して拝読いたしました。高校数学、物理の知識をもとに分かりやすく紹介とのことで、ベクトル・マトリックスを全く用いていません。位置、速度と加速度を極座標で表記することで、宇宙機の軌道がケプラーの法則に当てはまることを説明しています。ベクトル表記を用いず、極座標で表記しているため、三角関数が並んだ式が多く登場します。

 軌道力学を修得することの難易度を再認識しました。しかし、軌道力学の基礎理論は不変であるため、宇宙の分野に進むには、いずれかの教科書で1度理解しておくことをお勧めします。

 

参考文献

  1. Modern Spacecraft Dynamics and Control (Dover Books on Engineering)
  2. Introduction to Space Dynamics (Dover Books on Aeronautical Engineering) (English Edition)

  3. Satellite Orbits: Models, Methods and Applications

  4. 惑星探査機の軌道計算入門

 

The SpaceX Crew Dragon maneuvers to another port